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スタッフ日記

2018年 11月 15日
「秋のユキヒョウだより~同居訓練中~」

暑さも和らいで、冬の足音が着々と近付いてきているこの季節ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。


さて、浜松市動物園で暮らしているユキヒョウの「コハク」(オス)と「リーベ」(メス)ですが、本日から同居訓練を始めました。
「なぜこの時期から?早くない?」と思う方もいるかもしれませんが、これにはワケがあり、あえてこの時期からの同居に踏み切りました。

一体なぜか?その理由をご説明します。
(注 長いです。読むのが面倒な方は下の画像手前まで飛ばしたら理由の要約が書いてありますので、そちらをご覧下さい。)


その前に、まずはユキヒョウの生態について簡単にご説明…。
ユキヒョウは、野生下では子育てと繁殖の時期を除いて、オスもメスも群れをつくらずに1頭で暮らしています。
ユキヒョウの繁殖期は冬、この時期になるとメスは発情をむかえ、お互いに鳴き声や匂いで相手を探して交尾を行います。
繁殖シーズンが終わると、オスとメスは離れて、また単独で生活するようになります。

発情シーズンは大体10月~5月頃まで(日本の動物園のユキヒョウでは、通常ピークは12~2月)といわれています。
リーベも、札幌市円山動物園で暮らしていた頃は大体12月下旬頃から強い発情がみられていました。


つまり、これから冬にかけてはユキヒョウの繁殖シーズン真っ只中になること、野生ではメスの発情に合わせて(正確には発情の前後から)オスと一緒に過ごすようになるということですね。


コハクとリーベは国内のユキヒョウの繁殖計画によって、繁殖のために移動してきました。
2頭とも健康上の問題はありませんので、浜松市動物園でも当初の予定通り繁殖を目指しています。
そのため、これまでは別々に暮らしていたコハクとリーベを繁殖にむけて同居させる必要があります。


「じゃあ今日から2頭を一緒にしよう!」…といけばいいんですが、そう簡単でもなく、これまで別々に暮らしていた動物を同居させる場合、ひとつ気を付けなければいけないことがあります。

それは「闘争」です。

種の特性や相性の問題、また驚いてパニックを起こして…など原因は様々ですが、動物同士が闘争を起こして、ケガや最悪の場合死亡事故に繋がる危険があります。
特に狩りをするために全身が凶器のようになっている猛獣では、(動物自身に相手を傷つける意図がなかったとしても)爪や牙などで大事故に繋がる恐れがあるため、ことさら注意が必要です。

そのため、基本的にその前に柵越しでの顔合わせなどを重ねてお互いを慣れさせ、「一緒にしても問題がない」という判断ができてから同居をさせます。


さて、そんなリスクもある同居ですが、ユキヒョウのようなネコ科の猛獣の場合、一番危険が少ないとされているのは「メスの発情に合わせて同居させる」ことです。
※動物種や個体の性格などによっても変わってきますので、あくまで基本的に、ですが。

オスはメスの発情に反応して「相手が好き好き」モードになりますし、メスもオスを受け入れるモードになるので、闘争が起こりにくいからですね。


ということで、ユキヒョウの本来の生活パターンと同居時の安全性を踏まえて、ユキヒョウの繁殖に取り組む場合はメスの発情が強まる前後に同居させる、というのが基本になります。

じゃあ、同居させたってことはリーベの発情がもうきたんだね?というと実はそうではなく、今シーズンのリーベの発情はまだみられていません。

「おいおい、こんだけ長ったらしく説明しておいて話が違うじゃねえか」ってことなんですが、ここからが本題になります。


今回、主に2つの理由から、あえてリーベの発情が始まる前から2頭を同居させることにしました。

その理由は
・リーベの年齢
・コハクの性格
の2つです。


まず1つ目の「リーベの年齢」についてですが、リーベは現在15歳と、本来は繁殖適齢を過ぎた年齢の個体です。
ですが、昨シーズンまで若い頃と変わらない強い発情がみられていること、健康上にも問題がなく、動き等も年齢を感じさせない若々しい個体であることから、高齢であるもののまだ繁殖の可能性があるということで、今回の繁殖計画に選ばれました。

ただ、それでも高齢であることに変わりはないため、残された数少ないチャンスである今年の繁殖期でどうにか実を結んで欲しいというのが正直なところです。
(もちろん、次のシーズンもリーベに繁殖できるレベルの発情が来る可能性も十分にありますが、高齢になればなるほどリーベ自身にかかる負担も大きくなるため、担当者個人としては今年がラストチャンスぐらいのつもりで取り組んでいます。)


要するに、リーベの年齢を考えると、今年の繁殖期で繁殖に結びつけたいということですね。


そして、2つ目の「コハクの性格」ですが、コハクはかなり臆病で繊細な性格の個体です。
もちろん、長年住み慣れてきた環境から移動してきたばかりというのもありますが、それを差し引いてもホントにビビりです。
相手に対する反応も、リーベは割と早い段階からコハクの方に擦り寄っていったりしてくれましたが、コハクのリーベに対する態度の方は、意識はしているものの近付くのは怖い、みたいな感じでした。
そんな感じのコハクなので、通常のセオリー通りリーベの発情まで待ってから同居させても、すぐにリーベに近付けないのでは?まして、交尾姿勢なんか取れないのでは?という懸念がありました。

特に、コハクはこれまで同居や交尾の経験がないため、ただでさえ臆病なうえに初めての経験となると、尚更しっかりコミュニケーションを取れるようになるまで時間がかかる可能性があります。


2頭とも若いなら、今年がダメでもこの経験を活かして次のシーズンに、みたいなことも選択できますが、前述の通りリーベの年齢の件があり、今年のチャンスを無駄にしたくありません。


つまり、「リーベの発情が来てから同居させて、コハクがビビって距離をつめられないうちに時間が経って、交尾もできないままリーベの発情が終わってしまう」という事態は避けたいわけです。


ということで、リーベの発情が本格的に始まる前に2頭を同居させて、お互いに(特にコハクが)慣れる時間を充分に設けるため、あえてこの時期からの同居訓練を始めました。
(もちろん、この同居訓練はリーベが他のユキヒョウと同居経験があることや2頭の性格、顔合わせの様子などを踏まえ、闘争の恐れがないだろうという判断ができてから実施しています。)


実は割と早くからこの「早い時期での同居案」は考えていまして、コハクがそこそこ浜松の環境に慣れてくれた8月下旬頃から、柵越しでの顔合わせや、運動場を入れ替えてお互いの匂いを嗅がすなどペアリングに向けた取り組みを行っていました。
スローペースではありますが、コハクも少しずつリーベに対して近付けるようになり、今ではお互い柵越しに擦り寄り合うくらいにまでになっています。

「コハク…成長したなぁ」と担当者的には涙腺が緩みますが、とりあえずコハクがある程度リーベを許容できるようになり、同居に踏み切っても過度の心理的負担にはならないであろう段階になったと判断しましたので、今回同居訓練を行いました。


さて、長々と説明ばかりになってしまい申し訳ありませんが、以上がこの時期から同居を始めた経緯になります。

(読むのが面倒な方へ 「コハクが臆病なので仲良くなる期間をつくるために早めに同居させた」ってのが大筋の理由です。)


ここからは初同居訓練時の2頭の様子をお伝えします。

【▼初めての邂逅】
もっとコハクが飛び跳ねて逃げるくらいまで想定していましたが、思ったより静かなスタートでした。

【▲怖がって威嚇するコハクと、近くの柱にすりすりしながら敵意がないアピール(?)をするりーべ】
ありがたかったのは、リーベのコハクに対する反応です。
コハクが怖がっているのを分かっているのか、無理に近付こうとせずに距離を取ってコハクを待ってくれていました。
※ちなみに、この写真の後コハクが走って逃げました(+_+)


【▼座ってコハクを待つリーベ】
他個体との同居や繁殖歴のある経験豊富なリーベなので、上手くコハクをリードしてくれないかな~と軽く期待はしていたのですが、本当に期待通り(むしろ期待以上)に落ち着いてくれていました。
コハクにプレッシャーをかけずじっと待っていてくれて、本当にありがたいです。

【▲高台にいるリーベ(上)と下でそわそわしているコハク】
最初に何度か接触したあとは、リーベが上、コハクが下の状態で同居訓練終了まで過ごしました。
コハクはやはり落ち着かずずっとウロウロしていましたが、時には運動場の匂いを嗅いだり、マーキングや水飲みなどの行動もできていたので、多少は余裕もあったようです(もっと落ち着かないor萎縮してしまうかと思ってました)。



【▼下のコハクをのぞき込むリーベ】
余談ですが、リーベが登っているこの高台(先日設置しました)、環境改善の意味もありますが、一番の製作理由はこの同居訓練時にお互い距離を取れる空間をつくるためでした。
想定通り上手く活用してくれて、ひそかにガッツポーズしてたりします。

【▲待ちくたびれてウトウトするリーベ】
リーベ自身もコハクとの初同居なので緊張したと思いますが、そんな様子を全然表に出さず、終始落ち着いてくれていました。
ありがとうリーベ、これからもコハクをリードしてあげてね。


【▼訓練終了後、疲れ果てて部屋の中に引きこもるコハク】
きっとコハクに取ってはかなり心労の絶えない1日だったと思いますが、初回にしてはかなり頑張ってくれたと思います。
お疲れさま、コハク…。

ということで、コハクとリーベの同居訓練の様子でした。

しばらくの間は、2頭の状態をみながら不定期で同居訓練を実施します。
※実施の時間帯、訓練の長さは日によって異なります。
また、毎日連続で実施すると2頭が疲れてしまうので、訓練を行わずゆっくり休んでもらう日もあります。

同居訓練は当日のコハクとリーベの様子で実施するかを判断するため、しばらくの間は同居しているかを事前にお知らせすることができませんが、ご了承ください。
なお、同居訓練中はいままで2頭がそれぞれ暮らしていた2つの運動場を自由に行き来できるようにするため、場合によっては見えにくい場合がありますがご理解をお願いいたします。


ある程度2頭が馴れ、基本的に同居で過ごすようになりましたら、改めてHPでお知らせします。
はやく2頭が(特にコハクが)仲良くなれるように、応援していただけたら嬉しいです。


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