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スタッフ日記

2023年 2月 9日
「ニホンザルとドグエラヒヒの同居試みについて」

下の写真をご覧ください。

私たちにとってはなじみ深いニホンザル……だけではなく、別のサルも写っていますね。

写っているのはドグエラヒヒ。
なぜ、別のサルが写っているのか。

それは撮影場所がヒヒ比較舎で、ドグエラヒヒの展示スペースだからです。
つまり、このニホンザルがドグエラヒヒの部屋に居候しているわけですね。

実は当園では、以前よりドグエラヒヒの姉妹とニホンザルの同居を試みていました。

同じサルとはいえど、見た目も大きさも異なるニホンザルとドグエラヒヒ。
生息域も異なり、ニホンザルは日本に、ドグエラヒヒはアフリカに生息するサルなので、野生ではありえない組み合わせです。

当然、群れのルールや挨拶の行動も異なり、その結果、双方の意思疎通がうまくいかず、ケンカに発展することだってあります。

では、一体どうして一緒に暮らしているのか。
今回はその試みの紹介となります。

以下、現在のメンバー。

まず、このニホンザルの愛称はアーサー(旧名ナイト)といいます。

アーサーはもともとサル山で暮らしていました。
しかし、ある日群れのメンバーから追い回され、大けがを負わされてしまいました。
動物病院へ運び込まれたアーサーは、獣医によって治療され、その後、サル山に戻ったものの、すぐに大けがをして動物病院に出戻ってきました。
そして、また治療して傷が癒えたらサル山に戻って、すぐにケガをして帰ってくる。
そんなことを繰り返すうちに、いつしか動物病院で暮らすように。

しかし、動物病院は治療のために一時的に動物を保持する施設であり、飼育スペースとしては十分ではありません。
また、アーサーがケージを占拠していると、その分入院できる動物数が減ってしまいます。

サル山には戻れず、動物病院もそこで暮らせるような設計にはなっていない。
そこで、ドグエラヒヒのヒカリとの同居計画がもちあがりました。

同居相手としてヒカリが選ばれたのは、当時ヒカリが単独飼育だったためです。


そもそも、ニホンザルやヒヒは群れを作る動物です。
群れの仲間と毛づくろいをしあったり、挨拶をかわしたり、ときにはケンカしたり、豊富なコミュニケーションをとります。
そういった動物が1頭で暮らすと、他個体とコミュニケーションがとれないために、ヒマな時間が増えがちで、精神的にあまりよくありません。

本当は同じ種同士で一緒にするのが一番なのですが、アーサーもヒカリも当時はそれが難しい状況でした。

そのため、異種ではありますが、同居計画がもちあがったのです。


当然懸念もありました。
動物の種類が違えば、見た目は当然のこと、挨拶の仕方や社会のルールも違います。
やはり、同種同士に比べて問題は生じやすく、挨拶が通じなかったり、なだめる行為が敵対ととられ、それがもとでケンカにもなることもあるかもしれません。

では、なぜリスクを冒してまで、異種の同居を試みたのでしょうか。

たしかに、1頭暮らしだとエサをとられることも、他者の存在によるストレスを感じることも、ケンカでケガを負うこともありません。
しかし、毎日の環境の変化や、行動のバリエーション、感情の起伏は少なくなります。

つまり、1頭でいることによる安定や同居で問題が発生するデメリットよりも、他個体がいることによる変化がもたらす、メリットのほうが大きいと考えているからです。

群れをつくるサルは1頭でいるべきではないのです。

とはいっても、険悪な個体同士を無理に一緒にしていては意味がありません。


実際、ヒカリとアーサーを一緒にするとお互いに緊張状態になり、じきに大きなケンカに発展してしまいました。

その中でヒカリが大けがを負ってしまったため、アーサーを動物病院へ戻し、第一次同居作戦は終了しました。


しかし、それで諦めるのではなく、ヒカリの治癒を待ちつつ、第二次同居作戦に向けて計画を練り、いくつかの処置をおこないました。

その一つとして、親離れには少し早かったものの、隣の部屋から妹のルナを合流させました。

これは、第一次同居時にはアーサーの方が優勢だったためです。
ヒカリとルナが連合を組めば、アーサーにも対抗できるはず。
そんな思いがありました。

しかし、生まれたときから隣の部屋で見ていたものの、ルナがヒカリと一緒の部屋になるのは初めて。
ルナはヒカリに委縮してしまい、いまいち折り合いがよくありませんでした。

そこで迎えた、二度目のアーサーの同居。

ルナはヒカリ以上にアーサーにビビり、ヒカリを頼ったため、ルナとヒカリの結束は高まりました。

そして、狙い通り、ヒカリとルナ連合はアーサーの勢いを上回り、拮抗を保ちました。

これにて無事に同居作戦完了……とはいきません。

それからもケンカは頻発するわ、ルナが結構なケガを負わされるわ、アーサーがヒカリたちと一緒の部屋に帰りたがらないので収容ルーティンを作るために皆で頭を悩ませるわ、調子に乗ったルナがアーサーをいじめ始めるわ、さらに調子に乗ったルナが今度はアーサーを使ってヒカリへの下剋上を挑むわ……。
まぁ、本当にいろいろとありましたが、現在は一つの群れとして落ち着いております。

下の写真は最近の様子。

グルーミングなどの親和的な行動も見られます。


さて、現在は一つの群れとして一緒に暮らしている3頭。
今のところは大きな問題なく暮らせていますが、それなりの頻度でケンカはしてますし、何かの拍子で大きく群れの関係性が変わるかもしれません。
そういった動向を注視しつつ、これからも一緒に暮らせるように、1頭暮らしに戻らないように、飼育員一同、あの手この手で工夫を凝らしていきたいと思います。

ニホンザルとドグエラヒヒが一緒に暮らす、野生ではあり得ない不思議な空間。
そんな不思議な関係性で群れ生活を営む、アーサーたちにぜひ会いに来てあげてくださいね。



おまけ。
アーサーはナイトという愛称がありましたが、こちらへ来る際に改名しました。
理由は、永く暗い夜が明けて朝が来るように、騎士から王へ成るように願いをこめて……なんてことはなく、単純に隣の部屋のライトと愛称が似ていて大変紛らわしかったためです。


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